2010年2月25日木曜日

ホテル・ルワンダ



1994年、アフリカ・ルワンダ。ジュベナール・ハビャリマナの暗殺をきっかけに多数派フツ族による少数派ツチ族の大量虐殺が起こり、80万とも100万とも言われる人々が犠牲となった。この映画ホテル・ルワンダは、ルワンダの中心地キガリのホテル・ミルコリンの支配人であったポール・ルセサバギナが、1200人もの人たちをホテルに匿い脱出させた実話に基づく2004年にアメリカで公開された映画だ。
作品の題材からメジャーの配給もなく、数館での公開であったが、作品の素晴らしさが評判となり2300館で公開されるに至った。アカデミー賞にもノミネートされ、日本でもインターネットでの署名運動が起こり公開されるという作品の持つ力を感じる映画だ。
主人公のポール役には、クラッシュ、アウト・オブ・サイト、トラフィック、オーシャンズ11などで活躍しているドン・チーゲル、彼の妻・タチアナにはソフィー・オコネドーが演じた。彼らを支援する国連平和維持軍のオリバー大佐をニック・ノルティ、海外から取材に来たカメラマン・ジャックにホアキン・フェニックスと演技派の役者が脇を固めている。監督は、父の祈りをで脚本を手がけたテリー・ジョージ。

ホテルマンのポールが、ルワンダに起こった内戦から家族や友人を救うために始めた行いが、やがて彼のホテルに助けを求める人々や孤児達も救う行動に発展していくのだが、彼の機転と勇気で政府軍の幹部や民兵を相手に命がけで脱出を成功させようと戦う。凄いのは、彼が兵士でも政治家でもない普通のホテルマンということだ。生き延びれることに何の確証もないが、ホテルに集まった人たちに海外の有力者へ支援を頼む電話をするように伝える場面があった。それも、ただ電話をかけるだけでなく、この電話が命を繋ぐ電話であることを伝え、何も行動を起こさない自分達を恥じるように電話で相手を掴むように話すことを教えていた。ホテルマンとして人の心への気配りを培った彼でなければ、考え付かなかった試みが功を奏し、受け入れが決まる人達も出てくるのであった。
この映画、実話をベースにした映画だが、ドキュメンタリーではない。ニック・ノルティが演じたオリバー大佐も複数の人物がモデルになっているそうだ。ポールの素晴らしい人間性や彼の周りの人々の人間としての素晴らしさを伝えたかったのだろう。命がけで彼らを支援するオリバー大佐や、白人として海外の人間だけが救助されることに恥じるカメラマンのジャックの姿がそれを伝えていた。

そもそも、この内戦の基になる民族間の対立の種を蒔いたのは、白人である。第1次大戦後の1930年に統治していたベルギー人は、見た目の容姿から、背が高く皮膚の黒さが浅い人達をツチ族と呼び黒い肌で厚いくちびるを持つ人達をフツ族として分け、よりヨーロッパ人に近く見えるツチ族を優遇し、国を統治していたことが根源となっている。1950年代には、国連からの圧力で逆に民主化を進めるため、ベルギーはフツ族を後押しし、彼らベルギー人が植えつけた差別心から民族間の対立が激化し、大量虐殺に繋がっていく。
1994年の内戦では、海外のどの国もルワンダを救う動きはなく、100万人ともいわれる大量虐殺を放置することとなった。映画の中でオリバー大佐が、自分たち白人の行いを恥じて、ポールにつばを吐きかけてくれと苦悶するシーンがあった。アフリカ人を利用した西側の国々のエゴの歴史を感じさせられた。

この後、ルワンダは、1994年にツチ族で組織されたルワンダ愛国戦線(RPF)がツチ族保護を名目に全土を完全制圧し、フツ族のパステール・ビジムングを大統領、ポール・カガメを副大統領とする新政権が発足し、紛争は終結した。現在は、ポール・カガメ氏が大統領となり、2003年までには、一切の民族別証明を排除した改革と教育プログラムが実施された。フツ族、ツチ族という用語の使用も禁止されている。

内戦の悲劇を描いただけの映画ではない。人としての勇気を感じるいい映画だった。


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