2010年2月26日金曜日

愛すれど心さびしく


春が付くこの言葉。なんの事か分かるだろうか。

春機発動期

何か歴史の時間に習った言葉のようだが、聞き馴染んだ言葉でいうと思春期のことである。
中学から高校ぐらいまでの期間で、肉体的にも性的にも精神的にも成長し、子供から大人になろうとする時期だ。多感でいろんな事を考える時期で、親にとっては扱いづらい年頃だ。品悪くいうと色気づく難しいお年頃である。
子供と大人の違いは何だろうか。性的な成長は、いずれ親になり子供を育てるための変化だ。肉体的な変化だけでは大人にはなれないから、精神的にも成長するため今まで目を向けていなかった世の中のいろんなものに興味を持つ。
自分とは何か?自分の存在意義は?自分はどこに向かおうとしているのか?何のために生まれてきたのか?など自分の存在についてあれやこれやと考える時期でもある。
室生犀星の本で性に目覚める頃という本の読書感想文を書かされた事がある。今思えば思春期はまさに性に目覚める頃なのだが、当時はタイトルを聞いて、うへぇという感じだった。そんなタイトルの本を読んでどんな感想を書けば良いのかと思ったが、いたって真面目な小説だった。

思春期には、いろんな音楽を聞いたり、映画を観たり、本を読んだりして、いろんなものに憧れたり、世の中の矛盾や不条理など嫌なことがたくさんあることを知ったりと、自分と自分の周りを結び付けてあれやこれやと思いを巡らせる。
私の場合は映画を見て、ああ良いなぁと憧れるだけでいたって暢気に毎日を過ごしていた。グラフィックデザイナなんて楽しそうだなとか、淀川長治先生みたいに毎日映画を見て評論するのは素敵だなぁとは思ったが、自分の才能が足りないことや低い国語力もあり、夢見るだけで終わっていた。今考えれば、目標を持って頑張ってればとは思うが、結局は平凡なサラリーマンになってしまった。まぁそんなに悪いことはないが。

ただ、そういう多感な時期にたくさん映画を見たことはよかったと思う。
アパートの鍵貸しますやスペンサーの山、鉄道員を見て人間の優しさはどういうことなのかを知り、スミス都へ行くや勇気ある追跡を見て勇気とはなんぞやと考えたり、ジョーズを見て鮫は本当に恐ろしいものだと知った。
コメディーでも恋愛映画でもスペクタクルであっても、良い映画からいろんなものを教わった。
今もたくさんの良い映画があるが、見た目の派手さや制作費の高さばかりが話題になって、シンプルで深く掘り下げた映画の幅が薄くなったような気がするのは残念だ。

そういう映画の中でも印象に残っている作品が、「愛すれど心さびしく」である。アラン・アーキン主演でソンドラ・ロックと共演した悲しい青年の話だ。
ストーリーはこんな感じだ。結末まで書くので、まだ見ていない人はご注意を。

口も耳も不自由な2人の若者が、アメリカ西部の町に住んでいた。シンガー(アラン・アーキン)は彫版師、友達のアンナパウロス(チャック・マッカン)は、いとこの食料品店を手伝っている。2人お互いをかばい合うこのうえもない親友であった。しかし、精神薄弱であるアンナパウロスは病気のことが原因で、いとこの手によって病院に入れられてしまった。これをきっかけにシンガーは本当に孤独になってしまう。彼は町を出て、新しい少し大きな町に引っ越す。ケリー夫妻の家に下宿した。夫妻にはミック(ソンドラ・ロック)という14歳の娘がいた。彼女は、骨折した父の治療費を払うためという事情を分かってはいたが、下宿人をおくことに不満だった。下宿人をおくことで自分の部屋を空けなければならなかったからだ。そんな理由からミックは、下宿人のシンガーを憎んでいた。シンガーは新しい町で2人の友人を得た。その1人は、黒人の医師コープランド、彼は娘にそむかれ、白人にはいわれのない憎しみを持っていた。彼もまた、心淋しい人間であった。2人は徐々にではあるが心の窓を開いていった。そしてミックも音楽を通してシンガーと心を通わせ始めていた。
しかし彼女は少しずつ大人に成長しはじめる年頃。シンガーに好意を持ちながらも、家庭の経済的な事情から学校を退めなければならなくなり、自暴自棄になっていた。ほかの男に体を与え、シンガーを避けるようになってしまった。それに加え、コープランドも、ある事件をきかっけに再び娘と和解し、またもやシンガーは1人ぼっちになってしまった。親友アンナパウロスは、シンガーの努力も虚しく、精神病院から出ることができないまま淋しく死んでいった。その知らせを聞いたシンガーは自殺を決意してしまう。
それから数ヵ月が経ち、シンガーの墓の前でミックが泣いていた。
「知ってほしいの、心からあなたを愛していました」
何度も何度もミックはくり返し語りかけていた。彼女もまた、心淋しい人間のだったのだ。

どうだろうか。中学の頃にこの映画を見て何ともやり切れない気持ちになった。人を愛し、真面目に一生懸命生きていた青年が、淋しく孤独の中で死んで行く。世の中の不条理を感じる作品だった。この映画を見て、こう生きよう、ああしようとは思わなかったが、孤独がこんなに悲しいものだということは強く心に残った。

私は今、思春期ではなく思秋期に入ろうとしている。働き盛りの夏は後何年だろうか。誰もが秋を迎え冬を前にまたいろんな事に思いを巡らせる。
良い人生とは何だろうか?
その答えはこれから分かるのかもしれない。



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