
広島・長崎で被爆した生存者14人と原爆投下に関わったアメリカの人達の証言に記録映像を合わせたドキュメンタリーである。アメリカの大手メディアHBOが出資し、昨年の8月6日、広島に原爆を投下した日に全米で放送された。監督はロサンゼルス生まれの日系三世のスティーブン・オカザキさん。英訳された「はだしのゲン」を読み、広島・長崎に投下された原爆に興味を持ち、1981年に広島を初めて訪れ、核の脅威を世界に知らせるため、25年の歳月をかけドキュメンタリーを完成させた。証言と記録を綴り、主観的なナレーションは一切ない。映像を見て、見た人が核兵器がどういうもので、原爆投下した時に何が起こったのかを知るために綴られている。
映画の冒頭、渋谷駅前の風景が映り、若者達にある質問をする。「1945年8月6日に何が起きましたか?」誰も答えられる若者はいなかった。作為的な演出ではないかと思ったが、特典の監督インタビューで、取材をした時に本当に誰も答えられなかったのに日本のスタッフも驚いていたと語っていた。これは、若者の問題なのだろうか。若者でなく、大人に問題があるように思う。昔、私達の子供の頃、夏休みの8月6日か8月15日は登校日になっていて、校庭で黙祷した記憶がある。もちろん原爆の悲惨さは理解していなかったと思うが、今はそれすら行われていないところが多いと聞く。やはり、教育のあり方に問題がるように思う。監督も言っていたが、忌まわしい記憶を忘れたいのは人間の心理だが、この世界がいかに恐ろしい恐怖の上に成り立っているかを忘れないためにも風化してはいけないことだろう。君が代や国旗掲揚に反対し、護憲を唱えていながら、何ゆえ原爆の恐怖を伝えていく教育が後退しているのだろうか。
「はだかのゲン」の作者である中沢啓治さんは、「軍隊は持たない、戦争をしない、兵器を持たないと謳った憲法が出来て本当に良かったと喜んだと言われていた。この憲法九条と自衛隊の矛盾については過去より議論になり、改憲の動きも出ている。日本から戦争を仕掛けることはないが、攻められた時に丸腰では話にならないとか、日本はなんだかんだ言いながらアメリカの核の傘に守られているという話になる。ある意味それは事実かもしれないが、問題の本質は違うように思う。
攻めてくるかもしれないという疑心暗鬼が不幸なループを生んでいる。冷戦時代のソ連とアメリカが競って核兵器の配備を進めたのは、まさに攻められるかもという恐怖が生んだものだ。それに追随してフランスやイギリス、中国、インドと恐怖の連鎖は果てしない。今では、他国への威圧のために北朝鮮までもが核を保有しようとしている。日本が軍隊を持っても持たなくてもこの恐怖はなくならないだろう。
人間がこの地球上に生きている限り、戦争はなくならないという考えは普遍と信じているからだ。日本人の一般的な人の考えはどうだろうか。私には、誰も戦争を起こしたいと思っていないし、核兵器を持つことが幸福につながるとは考えていないと思う。自分の命は自分で守るという建前で成り立つアメリカの銃社会が、良い見本だろう。信頼関係を築く努力と戦争の無意味さを訴えていくことは幸福につながるが、疑心暗鬼はより悪い方向に向かうだけで何も生み出さない。
日本は、第二次世界大戦に敗れ、非核三原則を堅持し、戦争放棄した世界で唯一の戦争による被爆国だ。原爆で数十万の人達の尊い命が奪われ、大きな不幸にあった。日本は中国や韓国を初めとしたアジアの人達にも不幸を与えた。ハワイのパールハーバーにも奇襲攻撃を行った。日本人だけが戦争で不幸になったわけではない。世界中の多くの人々が、傷つき悲しむのが戦争なのだ。
たとえ時間が掛かろうが、すぐに結果が出なかろうが、私達日本人こそ世界に平和をうったえていけることが出来るのではないだろうか。
国が違えば風習も風土も違う。必然的に環境によってものの考え方も違うだろう。でもだからといって戦争はなくならないと考えるのは不幸だろう。以前、爆笑問題のテレビ番組で原爆に関する議論があった。その番組には被爆体験をされた方も出演されご自身の体験を語られた。その番組のなかで、ある文化人が、「残念だけど、核はなくならない。技術の進歩を試したくなるのが世の常だからなくなることはない。」と発言した。今のままでは確かにそうなのかもしれない。でも、それを変える試みもせず、そうですねという考えは受け入れがたい。
平和を望む真摯な姿勢はきっと伝わると信じ、地味で地道でもいいから日本は世界平和をうったえてほしい。ああ、日本人に生まれて良かったと思える活動をしてほしいものだ。
映画の後半にある被爆者の方がこう語っていた。
「体の傷と心の傷、両方の傷で苦しみながら生きている苦しみ私達だけで十分です。」
現在、世界で保有する核兵器は広島に落とされた原子爆弾40万発に相当する。
平和と信じている世の中は、そういう恐怖の上に成り立っているということをみんなが知らないといけない。
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