今は亡き名優の小池朝雄さんが吹き替えたピーターフォーク主演の刑事コロンボ。
「うちのかみさんがね」の名台詞も小池さんの吹き替えがあってこそ、これほど記憶に残る作品になったんだろう。もちろん、ピーターフォークのとぼけた演技もすばらしい。ぱっと見た目は、よれよれのトレンチコートで手には短くなった葉巻、髪はボサボサ、名刑事には見えないが、ねちっこく細かな証拠を積み重ね最後には犯人を追い詰めていく。犯人も作家、写真家、大佐や芸術家などハイソでインテリを鼻にかけた人種ばかりで、この小男をまぬけな刑事と油断し、皆コロンボの術中にはまっていく。
毎回、有名な俳優がゲスト出演し、犯人役になるのも、素晴らしく厚みのある作品に仕上がっていた。
このコロンボが私は大好きです。コロンボを見下していた連中が、最後にはコロンボの本質を知り、ある意味尊敬に近い対応に変わっていくところが実に面白いし、胸がすく。それにコロンボのキャラクターが実に楽しい。何でも好奇心が旺盛で、人懐っこく親しみやすく、実にチャーミング。本人はいたって真面目なのが余計に笑いを誘う。
暇になると、何回も見てしまうお気に入りのシリーズだ。
刑事コロンボはロサンゼルス市警・殺人課の警部。毎回、セレブな犯人のちょっとしたミスを見逃さず、執拗な捜査と推理で犯人を追い詰め、最後には犯行の謎を解き事件を解決する。コロンボの風貌といえば、はぼさぼさの髪によれよれのトレンチコート、口には葉巻を咥えている。物腰も柔らかで、うだつの上がらぬ外見で犯人達は警戒心を緩めてしまう。しかし、コロンボの小さな疑問に受け答えしていくに連れ、コロンボの巧みさに気付き犯人達は追い込まれていく。
殺人事件の謎を追うミステリードラマだが、暴力的な描写はなく、射殺された血まみれの遺体も出てこない。犯人とのやり取りと謎解きを楽しむドラマだから、そういう描写は意味を持たないからだろう。
主演のピーター・フォークの吹き替えは故・小池朝雄さん。もちろん作品は素晴らしく面白いのだが、小池さんの吹き替えがあったからこそ、ここまで人気を博したのだろう。「うちのかみさんがね・・・」、「あとひとつだけ・・・」、「よござんすか・・・」などのお馴染みのフレーズに加え、犯人の話に感心したり驚いたりする台詞まわしも巧みで、最終的に犯人を追い詰め謎解きを語る迫力も見事だ。元々、ピーター・フォークは甲高い声で小池さんの声質とは違う。NHKで放送していた当時、生の音声で見たいという視聴者からの要望が多かったので、字幕で放送したことがあったそうだ。
原音が良いと信じている人達のリクエストだと思うが、字幕での放送後は同じ様な要望は全くなくなったそうだ。小池コロンボに馴染んでいる視聴者には甲高いフォークの声に違和感を感じたのだろう。
最近は声優を専門にされている方が多くなったが、当時は新劇の役者さんも多く吹き替えされており、しっかりした演技が身についた役者さんが声で演技をしていたからこそ吹き替えが成り立っていたのだろう。
コロンボに登場する犯人役には毎回豪華なゲストスターが登場する。一話ずつ完結するから、ロバート・ボーン、ロバート・カルプ、ドナルド・プレザンス、ミスター・スポックことレナード・ニモイなどの豪華な俳優を出演させることが出来た。
田村正和さんの古畑任三郎は、ストーリー展開、キャスティング、古畑の語り口調など、コロンボから大きく影響を受けた作品なのは有名なお話だ。
ディック・ヴァン・ダイク演じる写真家が妻を殺害する「逆転の構図」、科学者ホセ・ファーラーが息子のために殺人を犯す「愛情の計算」、野望を実現するために手術で殺人を企てる医師レナード・ニモイ「溶ける糸」など豪華なゲストスターが名を連ねている。
あのスティーブン・スピルバーグも若い頃に刑事コロンボを1本監督している。
完全犯罪を成し遂げたと確信しているセレブな犯人は、一様に冴えない風貌のコロンボを見下しているが、話が進むに連れてその立場が逆転する。観ている視聴者は皆コロンボ目線で応援する。番組後半に決定的な証拠をつき止めたコロンボが、犯人に謎解きを語る時、強い口調で証拠を並べ立て、最後に静かに反論の余地のない事実を語る。いいぞ!コロンボとテレビの前で拍手を送る瞬間だ。
何度観ても面白い。話が分かっていても面白い。だからこそ何年経ってもCSやNHKなどで放送するのだろう。
主演のピーター・フォークも今や80歳を過ぎ、ニコラス・ケイジのネクスト以降は映画には出演していない。
ニュースではアルツハイマー症の症状が現われていて、ビバリーヒルを意味不明のことを言って歩いていた姿をパパラッチに撮影され、家族が正常な判断ができなくなったフォークと彼の財産を保護する申請を裁判所に提出し認められたと聞いた。
悲しい話だが、私達を楽しませてくれたピーター・フォークに心穏やかな余生を送らせてあげて欲しいものだ。
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