2009年8月19日水曜日

フォロー・ミー

少し前にBSで放送していた『フォロー・ミー』という映画を録画していたのを思い出し、観賞した。
この映画は若い頃に観て以来大好きな作品だが、ビデオ化もされず、DVDにもならなかった。
一言で言うと、とてもチャーミングな作品である。

この作品は、1972年に公開されたイギリスの作品である。
監督は、『第三の男』で知られる名匠キャロル・リード。脚本は、『アマデウス』のピーター・シェーファー。音楽は007シリーズでお馴染みのジョン・バリー。
主演は、『ジョンとメリー』や『ローズマリーの赤ちゃん』、『カイロの紫のバラ』のミア・ファーロー。ミア・ファーロー演じる主人公を尾行する変な探偵にはイスラエルの俳優トポルが演じた。トポルは『屋根の上のバイオリン弾き』でも知られる俳優だ。

世の中に純愛物語は星の数ほど出回っているが、この映画ほどピュアで心温まる映画はないと思う。
不治の病で主人公が亡くなるような悲恋物でもなければ、ドラマチックな巡り逢いを描いているわけでもない。
お互いに興味を持ち、楽しい恋愛期間を経て結婚した二人が、結婚したことでお互いを見失い、もう一度昔のような心の触れ合いを取り戻したいと願うお話だ。
それだけだと、何だか良さが分からないと思うが、映画全体の作り方がゆったりしていて、観ていると自分が微笑んでいるのに気付くはずだ。
上手く言えないが、そんな優しい気持ちになれる映画なのだ。

時代は1970年代前半。若者は新しい世界を求めて放浪するヒッピーが多くいた頃。ミア・ファーロー演じる主人公ベリンダもそんな自由な女性。インドを旅したり、友人の料理店を手伝ったり、自分のペースで生きていた。
公認会計士のチャールズは裕福な家庭で育った上流階級の紳士。
ベリンダは、チャールズの博識でウィットに富んだ会話や彼の思慮深い人柄を好きになり、チャールズもベリンダの自由でピュアな人間性と可愛い笑顔が好きになり、育った環境は違うがデートを重ね恋愛の末に結ばれる。
しかし、結婚生活を始めたら、以前はあんなに楽しかったのに、何をしてもパートナーの存在を感じ幸せだったのに、何故かチャールズの生活に馴染めない孤独感が顔を覗かせ出す。結婚したらどうして変わってしまうのか。好きなのに通じ合えなくなった男女。誰にでも起こるかも知れないお話だ。

映画では、心が触れ合うというのはこういうことじゃないかな、という感じで不思議な探偵クリストフォールを通して、そっと語りかけてくれる。
白いコートに白い帽子。浅黒い顔に口髭をはやし、人懐っこい顔をしたギリシャ人の探偵。ポケットにはいつもマカロンが入っていて、彼が持ち歩く白いカバンの中にも食べ物がいっぱい。探偵には似つかわしくない風貌。
彼は、チャールズの依頼でベリンダの素行調査を頼まれた探偵が大怪我をしたため雇われたピンチヒッターの探偵だった。
クリストフォールは、ベリンダの後を付けて、カフェや映画館を付いて周るのだが、元々探偵でもない彼の行動にベリンダが気付く。
いわゆるストーカーのような行為なのだが、クリストフォールの人柄がベリンダに伝わり、彼に恐怖を感じることもなく、ただ付いてくる彼を避けることもなくロンドンの街を歩き回った。
一定の距離を保ち、一切言葉を交わさない二人の不思議なデートが始まった。
最初の内は、ただ彼女の後を付いていたクリストフォールだったが、彼女に観せたいものを見つけたら彼が彼女の前に行ってリードするようになる。
ロンドンの下町にあるベーコン通りや鹿肉横丁といった変な名前の街を歩き、カフェに入ってピサの斜塔という名前の大きなパフェを食べ、博物館や美術館で絵画や彫刻を観賞し、公園の迷路を走り回りランチを取る。もちろん会話を交わすことはなく、顔の表情と身振りだけで気持ちを伝え合う。
クリストフォールがベリンダの前に立ってリードする時、彼はスクーターのミラーを手に持ち、後ろを歩くベリンダの顔を覗きながら歩くシーンが微笑ましかった。

ベリンダは浮気をしている訳ではなく、チャールズと心が通じ合えなくなった寂しさを紛らわすために街を彷徨っていただけであった。

ただただ、会話もなく二人が歩き回る光景を観ていると、観ている自分の顔が綻んでいることに気付く。

心の声を聞くことに言葉は要らない。ただ見つめ合って、相手のありのままの存在を感じることが大事なんだと映画はそっと語りかけてくれる。

ジョン・バリーの音楽がまた良くて、優しく心に触れる曲なのだ。
この映画については、最後まで見終わっても、時間がたつとまた観たくなる作品であり、人に薦めたくなる作品である。
だからという訳ではないが、結末を明かしてもこの作品の場合は良いように思う。

ここからは少し深読みだが、クリストフォールは二人の仲を心配した神様が送った天使がキューピッドという設定があったんじゃないかということだ。
まず見た目は全て白ずくめ、スクーターに至るまで白で徹底している。
調査をする予定だった探偵が大怪我したこともトポルの口からの説明で唐突だ。
こじつけるつもりはないが、そう思って観るとしっくりするのである。

映画の最後のシーン、テムズ川を行く船の上のベンチに腰掛けるベリンダが映される。
そして画面が切り替わると少し前の席に白い帽子をかぶったチャールズがマカロンを食べながら微笑んでいる。
ベリンダは、どうにか微笑むのを我慢している何とも言えない表情。
ジョン・バリーの曲が流れ、二人を乗せた船を俯瞰で写し出す。
エンドロール。

最後のシーンのベリンダが微笑みたいのを我慢している表情が最高だった。本当に嬉しい時はああいう顔になるんだろうなと思う良い表情だった。
先にも書いたが、最後の俯瞰の映像も高い空から見守っている存在があるように思え、やっぱりクリストフォールはキューピッドだったんじゃと思ってしまう。

色々と宣ったが、本当に良い映画だから観ていない人には絶対お勧めの映画だ。
ただ悲しいかなビデオにもDVDにもなっていないから、BSやCSの放送をこまめにチェックしてもらうしかない。
何でこんなに素敵な作品がDVD化されないんだろうか。それが謎である。


∧-∧
(=^・^=)kinop

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